世界のエリートはみなヤギを飼っていた【第4回】「リュウ、目覚める」〈田中真知×中田考コラボ小説〉
「世界のエリートはみなヤギを飼っていた」田中真知×中田考によるウイズコロナ小説【第4回】
「看護師さん……」
ベッドに横たわったまま、患者がつぶやいた。
「一番ラクに死ねる方法はなんですか？」
ヒヨリがいっていたのはこれね、とレイは思った。
頭や顎に包帯が巻かれていて顔は見えないが、ベッドの柵のネームプレートには「八木劉禅」とある。まちがいない。まさかリュウとこんな形で再会するとは。中学校以来だから、もう7、8年になる。でも、ちっともなつかしくなかった。
「看護師さん、黙ってないで教えて下さい。オレは看護師さんを必要としているんです！」
「ナースを必要としている」のがこういうやつばかりだったら、やりがいない仕事だな、ボケた老人の世話のほうがまだましだなとレイは心のなかで呟いた。
「痛いのはいやです。いまだって十分痛いし、死ぬときくらい痛くないのがいいです。なのに、リハビリではもっと痛くされるんですよ。ひどいでしょ。それで治ったって、そのあとどうやって生きていけばいいんですか。……だいたい、そんなカネ、返せるわけないじゃないですか。こっちが慰謝料もらうつもりだったのに、じつは払う方だったなんてあんまりじゃないですか。しかも大学もやめさせられるんですよ。オレ法学部だったんですよ。これから司法試験とか受けて裁判官とかになって、ばんばんもうけるはずだったのに、ひどい親ですよ。ああ、こんなことだったら、一回くらい授業出ておけばよかった……」
独り言をつぶやくリュウを、レイはしばらく白けた目で見つめていた。
「お気の毒ですね。同情に耐えません」
レイは無表情にいった。皮肉のつもりだった。
「なんてやさしいんだ！ 昨日はそんなふうにいってくれなかったのに、やっとオレの気持ちをわかってくれたんですね。感激だなあ。生きる希望が湧いてきました」
「死ぬんじゃなかったんですか？」
「いや、その……『君のためなら死ねる』ってやつですよ」
あいかわらずだ。変わってない。進歩がない。成長がない。思い出したくもない記憶が呼んでもいないのによみがえってきた。リュウはかまわずしゃべりつづけた。
「でも、ラクに死ねないなら生きてもいいかな、っていま思いました。『君のためなら生きられる』に変えてもいいです」
「変えなくていいです」
「えっ？」
「それに私は昨日来た看護師ではありません。私は武内といいます。ちなみに下の名前はレイです」
「武内……武内レイ？ なんか聞いたことがあるような……」
リュウはなにやら考え込んでいるようだった。そのすっとぼけた様子にレイは苛立ちを抑えられなくなった。
「八木劉禅！」
レイは思わず大声で叫んだ。
「は、はい！」
いきなり大きな声でフルネームを呼ばれて、思わずリュウはちぢみあがった。
「つ、つうか、な、なんで呼び捨てなんだよ。失礼だろ」
レイはかまわずリュウをにらみつけた。
「八木劉禅！」
どすの利いた声でレイはくりかえした。
「は、はい……」
「バ・カ・な・の？」
（第5回へ、つづく…）
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第1章 あなたが不幸なのはバカだから
承認欲求という病
生きているとは、すでに承認されていること
信仰があると承認欲求はいらなくなる
ツイッターでの議論は無意味
教育するとバカになる
学校は洗脳機関
バカとは、自分をヘビだと勘ちがいしたミミズ
答えなんかない
あなたが不幸なのはバカだから
「テロは良くない」がなぜダメな議論なのか
みんなちがって、みんなダメ
「気づき」は救済とは関係ない
賢さの三つの条件
神がいなければ「すべきこと」など存在しない
勤勉に働けばなんとかなる?
第2章 自由という名の奴隷
トランプ現象の意味
世界が「平等化」する?
努力しないと「平等」になれない
「滅んでもかまわない」と「滅ぼしてしまえ」はちがう
自由とは「奴隷でない」ということ
西洋とイスラーム世界の奴隷制のちがい
神の奴隷、人の奴隷
サウジアラビアの元奴隷はどこへ?
人間の機械化こそが奴隷化
人間による人間への強制こそが問題
第3章 宗教は死ぬための技法
老人は迷惑
老人から権力を奪え
老人は置かれ場所で枯れなさい
社会保障はいらない
宗教は死ぬための技法
自分に価値がない地点に降りていくのが宗教
もらうより、あげるほうが楽しい
お金をあげても助けにはならない
「働かざる者、食うべからず」はイスラーム社会ではありえない
なぜ生活保護を受けない?
金がないと結婚できないは噓
結婚は制度設計
洗脳から逃れるのはむずかしい
幸せを手放せば幸せになれる
第4章 バカが幸せに生きるには
死なない灘高生
寅さんと「ONE PIECE」
あいさつすると人生が変わる?
視野の狭いリベラル
夢は叶わないとわかっているからいい
「すべきこと」をしているから生きられる
バカが幸せに生きるには
三年寝太郎のいる意味
バカと魯鈍とリベラリズム
教育とは役立つバカをつくること
例外が本質を表す
言葉の暴力なんてない
言論の自由には実体がない
バカがAIを作れば、バカなAIができる
差別と区別にちがいはない
あらゆる価値観は恣意的なもの
『キングダム』の時代が近づいている
人間に「生きる権利」などない
第5章 長いものに巻かれれば幸せになれる?
理想は「周りのマネをする」と「親分についていく」
自分より優れた人間を見つけるのが重要
身の程を知れ
長いものには巻かれろ
ほとんどの問題は、頭の中だけで解決できる
権威に逆らう人間は少数派であるべき
たい焼きを配ることで生まれる価値
大多数の人にコペルニクスは参考にならない
為政者が暗殺されるのはいい社会?
謙虚なダメと傲慢なダメはちがう
迫害されても隣の人のマネを貫き通す
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